三賢社

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Buatsui Soup | コリン・ジョイスのブログ

勢いに惑わされて

2017.10.08

"たどる道すじ"がどんなにだいじかを考えていた。お粗末なスタートを切っても、のちに進歩のしるしがあれば人が集まってくる。すばらしいスタートを切ろうとも、いばらの道にさしかかると、口さがない者たちのえじきになる。

労働党の党首、ジェレミー・コービンは、(ぼくを含めて)世のおおかたから無能無才と片づけられていた。その後、2017年の総選挙で誰の予想をもはるかに超える成果をあげ、先ごろブライトンで行なわれた党大会は、次期首相の勝利集会さながらだった。議席数ではテリーザ・メイの保守党にしたのに。

テリーザ・メイのクビも間近という空気があるのは、期待どおりの働きをしなかったからだ。コービンの台頭とは裏腹に。

同じように、アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督が、終わった人という語られかたをするのは、かつて(長期にわたり)数々の偉業を成し遂げたからだ。アーセナルは王者だったり、上位入賞者だったり、優勝候補だったりした……ここ数年で退潮の傾向を見せるまでは。一方で、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は、就任から2年経ってもイングランドでなんのタイトルもとっていないのに、天才ともてはやされている。昨シーズンのリヴァプールは勝ち点でアーセナルを1点上回ったが、今シーズンは(7試合を終えたところで)アーセナルに1点負けている。

ふつうに分析すれば、今のところ両チームにほとんど差はないという結論になるのだろうが、ヴェンゲルには優れた実績がある。だが、クロップは前のシーズンよりも進歩を見せ、そのことを世間はやたらに強調する。

経験論の立場からするとばかな話だが、業績よりも進歩を尊ぶのが人間というものらしい。

共和制ローマのグナエウス・ポンペイウスが、独裁官スッラに言ったように。「人は落日よりも、出ずる日をあがめるもの」なのだ。

連載
コリン・ジョイス Colin Joyce
コリン・ジョイス
Colin Joyce

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)