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中村伸の寄席通信 | 三賢社のweb連載

第2回
「大喜利」とは寄席の余興のこと

2020.08.25

前座の落語や講談に始まり、二ツ目、真打と続き、合間に漫才、紙切り、太神楽曲芸、音曲などの色物が入り、いろいろあって最後は真打の落語や講談がトリをとるというのが寄席の番組のスタンダード。

これが夏休みなどは、ちょっと目先を変えて、トリの師匠が終わった後に余興の一幕を入れることがある。この余興を「大喜利」という。もとは「大切」なのだが、そこは縁起を担ぐ興行の世界のこと。わざわざ「喜」や「利」の字を当てているというわけだ。

さて、「大喜利」というと、どこかの番組でおなじみの座布団のやり取りを思い浮かべる人は多いと思うが、それだけに限ったわけではない。バンド演奏あり、賑やかな総踊りあり、芝居あり、じつにさまざまで、芸人が余芸としてそれを演じるから必ず笑いもある。代表的な大喜利の番組は、次の通りだ。

  1. ①「高座舞」上野鈴本演芸場4月下席昼の部、主任/金原亭馬生師匠
     (落語家が日頃習っている日本舞踊の腕前を披露する)
  2. ②「茶番」浅草演芸ホール7月上席昼の部、主任/金原亭馬生師匠
     (太神楽曲芸に伝わる歌舞伎をパロディーにした芝居を、芸人メンバーが上演)
  3. ③「アロハマンダラーズ」浅草演芸ホール7月中席昼の部、主任/春風亭柳橋師匠
     (音楽好きのメンバーによるハワイアンバンドの演奏と歌)
  4. ④「にゅう・おいらんず」浅草演芸ホール8月上席昼の部、主任/三遊亭小遊三師匠
     (トランペットの小遊三師、トロンボーンの昇太師らによるデキシージャズ演奏)
  5. ⑤「納涼住吉踊り」浅草演芸ホール8月中席昼の部、主任/古今亭志ん彌師匠
     (住吉連メンバー総勢数十人が「かっぽれ」など江戸前の粋な踊りを披露)
  6. ⑥「お笑い七福神」浅草演芸ホール8月下席昼の部、主任/桂竹丸師匠
     (落語芸術協会二ツ目による謎かけ、頓智大会。ダメな答えには顔にスミ塗り)
  7. ⑦「二人羽織」新宿末廣亭10月中席昼の部、主任/三遊亭遊三師匠
     (大ベテランの遊三師が落語家仲間と組んで演じる珍芸)

夏の暑い時期に大喜利の番組が多いのは、かつてクーラーのなかった時代、余興で人を呼ぼうとしたことの名残りでもある。また浅草演芸ホールでの催しが多いのは、ここがもともとはレビューやコント芝居の劇場であるために舞台の間口が広く、大勢の芸人がワッと賑やかにやるような趣向が映えるからだ。

大喜利の余興は20分くらいで終わるものもあれば、30分以上かけてたっぷり見せるものもある。落語や色物芸をたっぷり楽しんだ後、さらに音楽や芝居などのオマケがつく、寄席ファンにとってのお祭りのようなものだ。ふだんとは別の素顔が見えることもあるし、大喜利のある日に寄席に行くと、「芸人は何でもやっておかないといけないのだなあ」と、ちょっとため息が出る。

このほかに、国立演芸場2月中席の「鹿芝居」(主任/金原亭馬生師匠)も、ある意味では大喜利的な番組だ。噺家が芝居をするから「鹿芝居」。出し物はオリジナル脚本による歌舞伎のパロディーが多いが、ちゃんと稽古をして、衣装・道具なども本格的なものを揃え、見どころは多い。こちらもいつか機会があれば、ぜひ。

  • ※上席(毎月1~10日)、中席(毎月11~20日)、下席(毎月21~30日)
「大喜利」とは寄席の余興のこと | 中村伸の寄席通信

浅草演芸ホール、2018年7月のアロハマンダラーズ

中村伸の寄席通信 | 中村伸 なかむら・のびる

中村伸なかむら・のびる

1961年東京生まれ。出版社勤務からフリーランスに。編集者、伝記作家。著書に『寄席の底ぢから』(三賢社)。落語は好きで、DVDブック『立川談志全集 よみがえる若き日の名人芸』(NHK出版)や、『談四楼がやってきた!』(音楽出版社)の製作に携わる。ほかに水木しげる著『ゲゲゲの人生 わが道を行く』、ポスターハリスカンパニーの笹目浩之著『ポスターを貼って生きてきた』、金田一秀穂監修『日本のもと 日本語』などを構成・編集。