三賢社

— Web連載 —

中村伸の寄席通信(中村伸)

中村伸の寄席通信

落語を中心に、講談、漫才、浪曲、コント、
曲芸、奇術、三味線音楽、ものまねなど、
さまざまな演芸を楽しむことができる寄席。
注目のスター、いぶし銀のベテラン、個性派、仕事人など
多彩な芸人が出演し、3~4時間の公演時間を飽かさない。
東京の至宝ともいえる上野、新宿、浅草、池袋にある寄席の「現在」を
『寄席の底ぢから』(2018年小社刊)の著者がレポート。

第15回
寄席の新真打披露興行へぜひ!

1月中旬から休席していた上野鈴本演芸場が、3月下席(21~30日)の落語協会の新真打披露興行をきっかけに久しぶりに木戸を開きました。当面は昼の部だけの興行。モニターを見ながら弁当を食べることができるスペースが用意され(ロビーや客席内は食事禁止)毎週月曜日は定休にするとのこと。このあたりを髷を結った武士や町人が闊歩していた江戸時代から続いている寄席でもあり、このややこしい時期を何とかして乗り越えてほしい。

新宿、浅草、池袋の寄席は、終演時間を20時に切り上げたり、元に戻したりしながら、手探りでの興行を続けています。「まん延防止条例」が施行されると、また変化があるかもしれません。従来と違うのは、客席やロビーでの食事や飲酒を禁止していること。弁当持参で、昼から夜まで居続けすることができないのが、ちょっと寂しい。

それでも去年のこの時期、すべての寄席が休席し、他の場所で予定されていた落語会や講談・浪曲の会もキャンセルになっていたことを思えば、いくらか前進したような気がします。人が動いたり集まることで経済をまわし社会が成り立つ仕組みをつくってしまった以上、感染を抑えることは難しいのは確かですが、補償や助成の範囲を広げたり、検査を広げて感染の根を断つ努力をするなどの方法で、そうした社会をできる限り維持する姿勢を政府には期待したいところです。

演芸界にとっていい材料は依然として多くはないのですが、ギリギリのところで寄席は興行を続けていて、春先は客席にもいくらか活気が出てきました。4月上旬、試しに横浜にぎわい座寄席に行ってみたら、ここにも落語好きの観客がそれなりに集まっていました。

開口一番は前座の三遊亭まんとさんの「牛ほめ」。このところ高座返しなどでよく見る人でしたが、ようやく名前がわかってすっきり。萬窓師匠のお弟子さんで、口調がしっかりしていて聞きやすい。二ツ目の柳亭市好さんは「寄合酒」。早口でやや聞き取りにくい言葉があるのは気になりましたが、楽し気に高座をつとめる姿勢がいい。やや心配だった紙切りの林家喜之輔さんも、高座に落ち着きが出てきました。三遊亭遊史郎師匠のメリハリのある「厩火事」で休憩。後半は、雷門小助六師匠が松戸の町の風景をマクラにお得意の「紋三郎稲荷」。ヒザ替わりは三味線漫談の林家あずみ師匠の「役に立たない、ためにならない」やたら明るく楽しい話と唄。トリの古今亭菊之丞師匠は、落語家と歌舞伎役者と花柳界のお辞儀の仕方の演じ分けなどをマクラに、春のこの時期らしい「愛宕山」の一席。

横浜にぎわい座寄席は、毎月初めの7日間、落語を中心にした話芸に色物さんを組み合わせた定席のような形で番組を組み、落語協会と落語芸術協会の芸人さんを取り混ぜたおもしろい顔付けをしています。出演者は日替わり。それぞれの持ち時間もわりとたっぷりとっていて、料金もお手軽なので、ご贔屓の芸人さんが出るというような日に覗いてみるといいでしょう。

そうした通常興行に対して、ちょっと異彩を放っているのが、それぞれの協会の新真打披露興行です。落語芸術協会の桂宮治師匠の披露興行はすでに終了していますが、新宿、浅草、池袋、国立演芸場とまわった約40日間、どの日も大入り。大物ゲストあり、師匠の桂伸治師の漫談のような日替わりの口上あり、爆発的におもしろい当人のトリの高座ありで、まさに記憶に残る興行でした。

落語協会の披露興行も、先述の通り3月下席の上野鈴本演芸場からスタートし、新宿を経て、今は浅草演芸ホールで行われている最中です。こちらは九代目春風亭柳枝師匠(春風亭正太郎改め)、弁財亭和泉師匠(三遊亭粋歌改め)、柳亭燕三師匠(柳亭市江改め)、柳家喜三郎師匠(柳家小太郎改め)、三遊亭れん生師匠(三遊亭めぐろ改め)と、5人の新真打が誕生。日替わりで一人ずつ、師匠とともに披露興行を行っています。古典の本格派あり、新作の名手ありの個性派ぞろい。新真打全員が改名して披露興行に臨むというのは、あまり見たことがありません。

新真打の披露興行では、仲入り(休憩)の後に新真打とその師匠、協会幹部らが黒紋付姿でずらりと高座に並び、新真打の人となりや期待の言葉を述べるのが習わしですが、これがふだんの寄席とは違って楽しい。落語協会の披露興行では、会長の柳亭市馬師匠が50日間出ずっぱりで花を添えそうな気配。ふだんの年ならば、口上の席に最高顧問の鈴々舎馬風師匠も鎮座し、若手をいじったり突き飛ばしたりして笑いを誘うのがお約束ですが、今年の出演はあるのかどうか。コロナに感染し、今や体調も回復したとのことなので、元気な姿を見るのが楽しみです。

ちょっと先のことですが、5月には落語芸術協会の定期昇進の4人(三笑亭小笑、春風亭昇々、春風亭昇吉、笑福亭羽光)の披露興行もスタートします。去年の同時期には開けなかった両協会のお披露目が、今年はきちんと最後まで開催できるよう、そしてこの興行が寄席の新たな起爆剤になることを祈っています。

そうそう、これは首都圏だけの放送なのかもしれませんが、4月13日(火)夜のテレビ東京「開運 なんでも探偵団」で、噺家のお宝鑑定大会が放送される予定。収録会場は休席していた時期の上野鈴本演芸場だそうで、こちらもちょっと楽しみです。

寄席の新真打披露興行へぜひ! | 中村伸の寄席通信

今年の落語協会、落語芸術協会の新真打10人の名が入った提灯。横浜にぎわい座にて。

中村伸の寄席通信 | 中村伸 なかむら・のびる

中村伸なかむら・のびる

1961年東京生まれ。出版社勤務からフリーランスに。編集者、伝記作家。著書に『寄席の底ぢから』(三賢社)。落語は好きで、DVDブック『立川談志全集 よみがえる若き日の名人芸』(NHK出版)や、『談四楼がやってきた!』(音楽出版社)の製作に携わる。ほかに水木しげる著『ゲゲゲの人生 わが道を行く』、ポスターハリスカンパニーの笹目浩之著『ポスターを貼って生きてきた』、金田一秀穂監修『日本のもと 日本語』などを構成・編集。