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Buatsui Soup | コリン・ジョイスのブログ

堕ちた"ビューティフル・ゲーム"

2016.09.29

イングランド代表監督のサム・アラダイスが、1試合しか指揮をとらないまま辞任を余儀なくされたという今週のニュースには、やるせない思いをした。名将になると期待していたわけじゃない(むしろアラダイスの率いるイングランド代表は凡庸な、ここ数年と変わらず勝利に恵まれないチームになると見ていた)。この世はおぞましい、"ビューティフル・ゲーム"のはずのサッカーも正視するに耐えないほど腐敗している。そう思わされるようなできごとだから、やるせないのだ。

アラダイス元監督が、年間40万ポンド(約5200万円)の報酬で別の仕事をしようとしたこと、FA(イングランド・サッカー協会)の規則をないがしろにし、同業の仲間を小馬鹿にしたことが、メディアのおとり取材で発覚した。

イングランド代表監督の職は実入りがいい。年俸300万ポンド(約3億9000万円)とも報じられている。たとえば、もっと"大仕事"のはずのドイツ代表監督よりも高給取りだ。今年の欧州選手権で優勝したポルトガル代表の監督よりも高待遇。北アイルランド代表を率いるほうがよっぽど"いばらの道"なのに、あっちとはくらべものにならないほど給料がいい。高給なのはイングランドのサポーターからの"期待の高さ"ゆえと、かつては言われていたが、もはや過去の話だと思う。ぼくらはもう、代表の優勝なんか期待していない。「一流の人材を引き寄せるには、一流の報酬を払わなくては」という説もあるが、アラダイスや前任のロイ・ホジソンを世界でも一流の人材だなどと、まさか本気で論じる人なんていないはずだ。

代表監督がたんまりもらえるのは、イングランド人がサッカーを愛し、そのための出費をいとわないからだと思う。だからたいがいサッカーには、とりわけイングランドの試合には金がうなっていて、その金が不届きな連中を引き寄せる。たぶん最初は金のためだけじゃなかった者たちも、金ゆえに道を誤るのだ。

アラダイスは、本人が天職と公言した(そして多くの人がそう信じた)監督業で、すでに高額の報酬を得ていた。ならばどうして天職を賭してまで、もっと稼ごうとしたのだろう?

答えとして考えられるのは、元監督の「本性の現れ」、あるいは「出来心」。どっちにしても、やるせない話だ。

連載
コリン・ジョイス Colin Joyce
コリン・ジョイス
Colin Joyce

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)